東南アジア各国の平均寿命や出生率の経年変化を分析すると、この地域が紛争、自然災害、感染症、その他の危機に直面してきた歴史が読み取れる。東南アジアは、自然環境、歴史、宗教、経済状況、政治体制だけでなく、医療においても、大きな多様性を特徴として持つ。その一方で、この地域には、高齢化、安全で安心な医療への普遍的なアクセスの必要性、平和と環境の調和の追求など共通の課題がある。現在、日本の高齢化は東南アジア各国と比べ突出しており、認知症を含む慢性疾患を持つ高齢者や一人暮らしの高齢者が目立ち、孤独死も大きな課題となっている。現在の人口動態の傾向が続けば、ほとんどの東南アジアの国々も将来、日本と同様の課題に直面する可能性がある。我が国は高齢化の最前線におり、65歳以上の割合は3割に迫った。その経験を東南アジアの国々と共有することは極めて重要である。
本稿では、各国の90パーセンタイル年齢の推移に注目し、単に年齢だけに注目するのではなく、社会における年齢の相対的な位置づけを考慮することの重要性を提唱したい。この90パーセンタイル年齢が日本は80歳に到達した。これは、日本人口の1割以上が80歳以上となったことを意味する。この日本の社会において、65歳で定年する仕組みが果たして持続可能といえるだろうか?高齢者に対するケアの提供に重きが置かれてきたが、同時に高齢者の担いうる役割に注目することが重要ではないか。同じ年齢であっても、生活環境や生活習慣によって、健康状態に大きなばらつきが生じる。社会における特定の年齢層の健康状態は、環境や文化、地域や時代によって異なるため、国際社会の協力を得ながら、それぞれの社会の実情に応じた対策を講じ、課題に取り組むべきであろう。
本研究は学術雑誌「Geriatrics & Gerontology International」(2025年5月15日付)に掲載されました。

参照データ:United Nations, Department of Economic and Social Affairs, Population Division (2024). World Population Prospects 2024, Online Edition.

参照データ:World Health Organization, The Global Health Observatory; United Nations, Department of Economic and Social Affairs, Population Division (2024). World Population Prospects 2024, Online Editionなど
ただし、タイ労働省は、民間部門と政府部門の定年を65歳に引き上げることを計画している。
著者よりひとこと
今回の論文では今まで注目されてこなかった各国の90パーセンタイル年齢の推移を視覚化してみました。私が子供だった頃、60歳台だった日本の90パーセンタイル年齢は今や80歳に到達しました。つまり、人口の10%以上が80歳以上ということです。社会における年齢の位置づけも時代と共に変化させていく必要があるのではないでしょうか。
研究者情報
坂本龍太 京都大学教育研究活動データベース
書誌情報
タイトル | Aging in Southeast Asia and Japan: Challenges and opportunities |
著者 | Ryota Sakamoto |
掲載誌 | Geriatrics & Gerontology International |
DOI | 10.1111/ggi.70062 |
問い合わせ先
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京都大学東南アジア地域研究研究所
准教授 坂本 龍太
E-mail: sakamoto65 [at] cseas.kyoto-u.ac.jp([at]は@に置き換えてください)
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